走れ、チゲイーター!

 よっこいしょ、という感じでようやく生活が安定して周り始めた矢先、緊急事態宣言の影響をモロに食らってしまった。バイト先は1日しか出勤せずに休業、NSCにも2度行っただけで、5月の授業は全てオンラインで行われるらしい。この厄介な疫病が猛威を奮っていた去年の4月には「新入生は人生の大切な時期なのに可哀想やなぁ」とか鼻くそほじりながらテレビを眺めていたけれど、実際自分が直面すると本当に腹が立ってしょうがない。この1年間、政府の施策に対して「10万くれてありがてぇぜ」くらいしか関心がなかったのを棚に上げて、もっと上手な感染対策は取れなかったのか!と憤ったりもしている。

 思い返してみれば、おれが昨年大学の授業がオンラインで行われることに胡座をかいて怠惰な生活を繰り返していた頃に、学友たちは慣れないオンライン環境に四苦八苦しながら、単位を取りつつ企業研究や自己分析に勤しんでいたのである。年が明けていよいよ友人たちが合同説明会やインターンに精を出す中、おれはのそのそとswitchの電源を付け、寝る間を惜しんでファイアーエムブレムをやりこんでいたのである。そんな人間に都合の良いように世界が回るわけもなく、全く先の見えない状況の中、全く先の見えない世界で闘わざるを得なくなってしまった。これぞ、というほどの因果応報。用例にしてほしい。

 

 そんな毎日ではあるけれど、牛歩ながらも日々は進んでいるらしく、口座残高は減り続けているので、ついに目先の金欲しさにウーバーイーツを本格稼働させ始めた。京都でも数件こなしたことはあったけど、2時間で500円とかしか稼げず、そのやってられなさに一筋の泪を流しそっと鞄を置いたきりになっていた。しかしおれは大阪に戻ってきたんだ。なんか天下の台所とか呼ばれていたらしい。稼げないわけがない。大音量でウーバーウーバー流しながら大型トラックに街を巡回させたっていいぜ。5時間自転車を漕いでだいたい5000円くらい。感覚的には自転車で大阪市内を駆け巡るだけでお金が貰えるからだいぶ楽。近所にある韓国料理屋が人気なようで、一日に数回配達をすることも多いのだけれど、それが漏れなくとんでもない距離を走らされることになっている。もう4回ほど豆腐チゲを背負って片道7キロの道を汗かきながら走る羽目になってしまった。なんかよく分からない地下のトンネルも渡ったし、エレベーターに豆腐チゲだけを乗せて、16階まで無事に昇りきるのを見届けたりもした。これはもう完全に統計が取れたけれど、タワーマンションの住人たちはウーバーイーツ配達員がチゲを溢さないように長距離を移動している様子をチャミスルを飲みながら楽しんでいる。舌鳴らして「カッ」じゃないよ全く。いつか絶対チャミスル側に回ってやる。

 

 これからみんなが就活で落ち込んだときには「下には下がいる」の精神でおれのことを嘲笑ってほしい。それはおれが豆腐チゲを背負って走る理由になるから。